第36回日本看護学会論文集「癌性悪臭に対するオゾン製品の消臭効果」

要旨:

人の人生において終末期は本人、家族にとってもっとも大切な時間の一つであり、どのような最期を迎えるか、緩和ケアをはじめ様々なアプローチがされている。今回は癌性悪臭で大変苦慮していた症例をオゾンジェルやオゾン水を活用することによって劇的に臭気を減らすことができ、また潰瘍の表面がきれいになったということで、終末期の医療にオゾンジェルが貢献できることが示唆された。終末期に臭気を抑え、きれいになれるというこの症例は、オゾンジェルが人の生命に寄り添えることを教えてくれた。このような症例に貢献できるよう医薬品としての開発を加速させ、早く普及できるように努めたい。以下の症例は2005年11月24日、社団法人日本看護協会が発行する第36日本看護学会論文集-看護総合-に掲載された大阪市立総合医療センターの報告を要約したものである。

背景:

2004年に日本褥瘡学会でオゾンジェルの褥瘡への有効性を発表したが、その講演を聞かれていた大阪市立総合医療センターの方から癌性悪臭でとても困っているとのことであった。
一般的な臭気対策はパッキング(密閉)があげられるが、顔面や頸部は解剖学的特徴からパッキングが困難であり苦慮していた。
癌性悪臭の原因は嫌気性菌と言われており、オゾンは嫌気性菌に有効なためオゾン製品(オゾンジェル、オゾン水)で癌性悪臭を改善できると思われた。

方法:

病床から12m離れているエレベータホールにまで臭気が到達するほどの症例であったが、既存の方法では改善できず、オゾン製品(オゾンジェル、オゾン水)にて解決の糸口にと考えた。オゾンは殺菌、消臭に有効であること、人体に無害であること、研究結果を発表するが個人を特定できる情報を流すことはなくプライバシーは守られること、一旦同意した後でも同意の意思を撤回することができることの同意を主治医から書面で得て患者並びにご家族の同意を得て実施した。

評価:

グリセリンのオゾン化合物であるオゾンジェル、オゾンを水に溶解したオゾン水を用いた。オゾン水は腫瘍部分の洗浄に、オゾンジェルは主要部にガーゼで薄くのばし患部に用いた。
(1)臭気測定は、看護師の嗅覚による主観的評価の臭気スケールを,1全く臭わない,2少し臭う,3臭う,4かなり臭う,5かなり強く臭うの5段階として作成する
(2)当日勤務している看護師全員(日勤7〜8名,準夜深夜2名)が室内入り口の臭気の変化を9時,11時,17時,23時,4時に主観的に評価する
(3)空気清浄器使用前後,オゾンジェル使用1日目,3日目,以降1週間毎に評価する
(4)評価日別に臭気スケールの平均を出し,スケールの変化を比較する
(5)時間別に臭気スケールの平均を出し,スケールの変化を第1段階(オゾン製品使用前)と第2段階以降(オゾン製品使用後)との変化を比較する
(6)医師,看護師,家族の主観的反応を聴取する

経過と結果(図1参照)

1)評価日別の臭気変化

第1段階で,空気清浄器使用により平均臭気スケールは4.0ポイントで使用前より0.3ポイント下がった。
第2段階でオゾンジェルを使用し,1日目(11月19日,図1;オゾンジェル1日目)の平均臭気スケールは3.1ポイントで空気清浄器使用時より0.9ポイント,3日目(11月21日,図1;オゾンジェル3日目)には2.4ポイントで1.6ポイント下がった。医師,看護師から「劇的に臭いがなくなった」との反応があった。一時的に臭気が減ったものの自潰範囲の拡大に伴い,浸出液が増量し,医師•看護師の多くが再び臭気を強く感じるようになった。オゾンジェル使用10日目(11月28日,図1;オゾンジェル10日目)には3.4ポイントに上昇した。そのため翌日の11月29日から第3段階としてオゾン水による洗浄を開始し,オゾンジェルと併用した。オゾン水洗浄を続け,1週間後(12月5日,図1;オゾン水併用7日目)には平均臭気スケールは3.0ポイントとなり0.4ポイント下降した。オゾン水の洗浄を行うことで,医師から「腫瘍部の表面がきれいになった」と反応があった。しかし患者の状態はさらに悪化していった。腫瘍が徐々に増大することで呼吸困難感が出現し,自潰部全体をガーゼで覆うことが困難となった。また意識レベルの低下もあり,無意識に自分でガーゼを除去することが多くなった。そのため,さらに臭気が強く感じられるようになり,第4段階として12月6日からオゾン水噴霧を開始した。オゾン水噴霧6日目(12月12H,図1:噴霧併用6日目)2.8ポイントで,1週間前より0.2ポイント下がった。

2)時間別の臭気変化(図2参照)

オゾン製品使用前の第1段階では4時が最も高い4.5ポイントを示し,17時,23時が最も低い4.0ポイントであった。その差は0.5ポイントであった。第2段階以降のオゾン製品使用後ではガーゼ交換後の11時が最も低い2.7ポイントを示した。ポイントが最も高い時間は4時の3.2ポイントで,その差は0.5ポイントであった。オゾン製品使用前後の臭気スケール比較では,オゾン製品使用後のほうがいずれの時間とも低かった。
家族の反応
研究前後ともに夫,妹などの面会は頻繁にあった。夫はオゾン製品使用後「臭いが苦にならなくなった。けた違いです。」と話していた。患者の面会者から夫へ「なぜ臭いがましになったのか」との質問があった。

ID.考察:

第1段階では空気清浄器の効果を判定したが,あまり変化が見られなかった。第2段階でオゾンジェルを使用したことで,第1段階よりも大きくポイントが下降していること,また,オゾン製品使用後の方がいずれの時間においても臭気スケールが低かったことより,オゾン製品による消臭効果が得られたと考える。一般に,癌性悪臭の原因は,嫌気性菌感染が密接に関係していると考えられている。オゾンは嫌気性菌に対しても強い殺菌効果があり,また嫌気性菌が発する硫黄を分解する効果もあり,臭気が軽減したと考えられる。
第3,4段階では,腫瘍の拡大及び浸出液の増加に伴い臭気が増加した。この時期にオゾン製品の形態を変えて併用したことで,臭気を軽減することができた。オゾン水はオゾンジェルに比べて持続時間は短いが,洗浄が可能であり,持続時間の長いオゾンジェルと併用することで,相乗効果が得られたと考える。先行研究1>では,強酸性水を用いたものがあるが,オゾン水のほうがより殺菌効果が強いため,消臭効果も高かったと考える。渡辺ら2>は癌性悪臭により「患者は自分でも困るほどの不快な臭いにより家族や友達が離れていくことに苦しんでいる。悪臭の存在を否定してみても,悪臭の存在に敏感になっている患者にとりなんの解決にもならない。やがて,患者にとっては,悪臭を気にしなくなることがあるが家族にとってはいつまでも気になる臭いである。」と述べている。A氏は嗅覚が麻痺していたが,臭気が強いことは認識していた。また,家族は「臭いがたまらない」と医師,看護師に何度も訴えており,苦痛を感じていた。しかし,オゾン製品を使用することで臭気が軽減され,最後まで患者との良好な関係を維持できた。今回,臭気スケールには看護師の嗅覚による主観的判断を用いた。そのため,同じ日時に測定しても値にばらつきがあった。人間の嗅覚には個人差があり,より多くの件数が必要であるとともに,同一嗅覚による継続した測定が必要であった。毎日面会に来ていた家族の協力を得れば,より客観的に効果を判定できたのではないかと考える。

結論:

オゾン製品を使用することにより,T氏の癌性悪臭の軽減への援助ができた
引用文献
1)吉見幸子:癌性悪臭に対するケア強酸性水とメトロニダゾールの効果,日本緩和医療学会総合プログラム講演抄録集,第7巻,p.77,2002.
2)渡辺孝子:緩和ケア実践マニュアル,第3版,p.205,医学書院,2000

参考文献:

1)石黒徹•加藤ひとみ•高橋美園,他:末期癌患者に対する緩和ケア(3)癌性悪臭に対する外用剤の試みPartII,クリニカルファーマシーシンポジウム•講演要旨集,第8巻,p.203,2002.
2)塩田剛太郎•鈴木喜久美:オゾンジヱルの基礎的検討⑴一持続性オゾンジヱルの殺菌効果一,日本褥瘡学会誌,第5巻,p.312,2003.
3)塩田剛太郎•鈴木喜久美•八木誠司:感染性皮膚潰瘍における電解オゾン水の評価と褥瘡への応用,日本褥瘡学会誌,第5巻,p.395,2003.
4)中山益代,他:微生物学ノート,第1版第1刷,共和書院,1994.
5)吉澤明孝:癌患者のにおいにどう対応するかーメトロニダゾール軟膏による臭気管理について一,エキスパートナース,16巻,p.20-23,2002.