アトピー性皮膚炎を始めとした各領域でのオゾンジェルの利用と歯科への今後の適用

背景と目的:
我が国において、国民の約2人に1人が何らかのアレルギーに罹患していると推定されており、アトピー性皮膚炎は国民の1割である。しかしながら、アレルギー疾患に関する研究については、徐々に解明が進みつつあるが、完全な予防法や根治的治療法はなく、生活環境確保と抗炎症剤等の薬物療法による長期的な対症療法となっているのが現状である。1)また、我が国の4分の3が歯周病に罹患していると言われており、その数値は減少していない。つまり、皮膚のみならず歯科においても難治性な慢性炎症疾患とも言えるケースが非常に増加している。また、抗生物質の乱用による多剤耐性菌も社会的に重要な課題となっており、口腔内においても長期間抗生物質を使用できないため、その対応に苦慮するケースが多い。アトピー性皮膚炎も歯周病も炎症疾患であるが、慢性化した炎症状態に対して抗炎症剤として汎用されているステロイド製剤を長期間適用することは、酒さ性皮膚炎などステロイド製剤の副作用の問題からも課題となっている。

そのような背景で、抗生物質と違い耐性菌ができない殺菌手段であり、かつ創傷治癒効果や抗炎症効果をもつオゾンが注目されている。同時に歯科と様々な全身性疾患の相関が明らかになっており、より歯科と各科の連携が重要になってきており、歯科の果たす使命は大変重要である。
ここでは、アトピー性皮膚炎を中心とした皮膚や眼へのオゾン利用の現状と今後の歯科への応用について述べ、歯科から全身性疾患へのアプローチによるQOLの向上に結びつけたい。

皮膚科領域でのオゾン利用:
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2)によると、アトピー性皮膚炎を皮膚の生理的機能異常を伴い、複数の特異的刺激あるいは特異的アレルゲンの関与により炎症を生じ、慢性の経過をとる湿疹とその病態をとらえ、その炎症に対してはステロイド外用療法を主とし、生理学的機能異常に対しては保湿剤外用などを含むスキンケアを行い、掻痒に対しては抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を補助療法として併用し、悪化因子を可能な限り除去することを治療の基本とするコンセンサスは確立されていると記載されている。特に非ステロイド系消炎剤外用剤(NSAID)は、抗炎症作用は極めて低く、接触性皮膚炎を生じることがまれではなく、その適用範囲は狭いとし、ステロイド外用剤の適用がベースとなっている。しかし、ステロイド外用剤の長期連用により、皮膚が薄くなることや酒さ様皮膚炎の発症などが認められており、長期連用には注意が必要である。 そもそも、正常な創傷治癒とは3日から14日を要し、炎症期・増殖期・修復期の3つのフェーズがある。 炎症とは、細菌やウイルスの感染に抵抗するための生体防御反応である。具体的には、発赤・腫脹・発熱・疼痛・機能障害が知られている。しかし、その炎症状態が一過性の急性炎症でなく慢性化することで様々な障害を引き起こす。慢性炎症化する原因は多岐に渡るが、現時点で長期間投与しても副作用を起こさない抗生物質や抗炎症剤が必要である。 実際にアトピー性皮膚炎では、増悪因子の一つとして黄色ブドウ球菌が挙げられ3)、主に殺菌効果を期待してオゾン水を使用したところ有効性を示した報告もあり4)、従来のガイドラインでは難治性化している症例へオゾンが適用できる可能性を示唆している。 また、特異的なアレルゲンとしてダニが原因となるケースも多いが、オゾンがアレルギー原因の増悪物資であるアレルゲンとプロテアーゼの双方を失活させ、アレルゲン以外に多くの物質を含むハウスダストにおいても同様の効果が示唆されている。5) また、薬事法においては化粧品の適用であるが、保湿剤であるグリセリンにオゾンを溶解したオゾンジェルは安全性評価6)、殺菌効果7)、創傷治癒促進効果8)が認められており、従来の手段で治癒が困難な難治性化したアトピー性皮膚炎をはじめとした慢性炎症や潰瘍で使用されている。9)

口角炎 回復の事例

症状:口角炎

23歳女性
口角発赤とかゆみ
アトピー性皮膚炎

皮膚科でステロイド含有抗生物質製剤軟膏と
アレグラ製剤を投与されたが改善は見られず

オゾンクリーム(オゾンジェルを軟膏化したもの)を患部に塗布したところ、
3日目に発赤もかゆみも消失し、皮膚の角化
もみられ、6日目にはほぼ完治した

眼科領域でのオゾン利用:
最もデリケートな臓器である眼においてオゾン水の使用が増加している。その理由は、従来汎用されていたポピドンヨード製剤と比べて角膜上皮障害が非常に少ない点や耐性菌ができないこと10)、そして細菌のみならずウイルスへも広いスペクトルで効果を示すことが挙げられる。11) 合わせて、白内障術後の傷の治りが綺麗で早く、視力の回復も早いということも挙げられる。
水という極めて低刺激な溶媒にオゾンガスが溶存したオゾン水はpHが中性のままであり、反応後速やかに酸素に戻り、その酸素は為害性を示すどころか、創傷治癒促進に寄与すると考えられる。この点が従来の殺菌剤や塩素剤と異なり、細胞への残留毒性を示さないため、極めて低刺激な殺菌剤・創傷治癒促進剤としての眼科領域でオゾン水が用いられている理由である。

歯科領域におけるオゾン利用:
口腔は細菌数が1011と消化管と同じ程度存在し、少々の傷でも細菌感染しやすい部位である。しかし、粘膜ゆえに非常に敏感な部位であり、アナフィラキシーショックの問題でグルコン酸クロルヘキシジンの使用が制限されるなど、安全かつ有効に粘膜適用できる殺菌剤や抗炎症剤のニーズがとても高い。また、超高齢化社会の到来における口腔と全身性疾患の相関が徐々に明らかになり、より安全で有効な口腔ケアのニーズも高くなっている。
そのような背景で、オゾン水が注目され、様々な歯科利用が検討されているが、臨床報告はまだまだ少ないのが現状である。その理由として、①オゾンガスの気道への影響②有機物の多い口腔内でのオゾンの不安定さが挙げられ、普及が進まなかった。 高濃度のオゾンガスは呼吸器への毒性が認められているが、オゾンガスの気道への対策としては、口腔内適用時においてバキュームを併用することでオゾンガスが検出限界以下になったという報告があり12)、今後オゾン水を口腔内で安全に使える可能性が示唆された。 また、有機物の多い口腔内でのオゾンの不安定さの改善としては、水を溶媒とした場合には半減期が30分~40分程度と短く、極めて流動性が高いため患部に保持できない点が課題であった。
そこで開発したオゾンジェルは、保湿剤であり食品や医薬品で汎用されているグリセリンにオゾンを溶解したものであり、半減期が飛躍的に延長できた。同時に粘稠なグリセリンは患部への保持性が高まりより口腔内での使用に適している。更にオゾン水では気体の溶解度の法則として常温常圧で20ppm程度が限界であるのに対し、オゾンジェルは1000ppmまで溶解することが可能となり、反応に関与する総オゾン量を圧倒的に増やすことができたため、有機物共存下での効果も期待できる。ここで重要な点は、1000ppmにおいても創傷治癒が促進されたことである。つまり、保存が可能になったことからわかる通り、グリセリン中のオゾンは極めて徐放的にリリースされるため、1000ppmという超高濃度に関わらず、極めて低刺激である。さらに、保湿剤であるグリセリンに殺菌・抗炎症効果のあるオゾンを溶存したため、湿潤しながらの理想的な創傷治癒環境を提供できる点も重要である。さらにオゾンジェルは一切オゾンガスを気散することがないため、呼吸器への悪影響の懸念がなく、口腔内の使用に最適である。
このことにより、耐性菌ができず、殺菌作用と抗炎症効果をもったオゾンジェルは歯周病治療を始め様々な口腔内の炎症性疾患を中心に適用が広がるものと考えられる。

今後のオゾンの歯科利用の指針:
歯科におけるアレルギーと言えば金属アレルギーが中心であったが、国家的な課題として様々なアレルギー疾患の増加、そして超高齢化社会における口腔ケアの重要性と全身疾患への影響を背景に、より歯科におけるアレルギーや炎症性疾患へのアプローチが求められる。また、アトピー性皮膚炎の患者がステロイド製剤への風評を含めた誤解などから皮膚科へ行かず、民間療法で悪化するケースも増えており、社会的な問題となっている。アトピー性皮膚炎のみならず、様々な疾患により口内炎・口角炎など歯科ではその病態を目の当たりにすることが多く、そのような患者に対して適切な指導ができる立場にあり、実際にその役割が示唆されている13)。皮膚は内臓の鏡、口腔は全身の鏡である。オゾンを用いて、様々な難治性疾患の治癒に歯科が中心となって寄与することが、今後の大変重要な使命であると考える。

文献:
1)アレルギー疾患対策の方向性 厚生労働省健康局疾病対策課長通知 2011.8.31
2)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 日本皮膚科学会誌119.8.2009
3)岩月啓氏 アトピー性皮膚炎を難治化させる黄色ブドウ球菌定着・感染症 皮膚の科学 5.7.2006.11
4)長野拓三 オゾン水による顔面紅皮症型アトピー性皮膚炎の治療成績について 医薬の門 38.6.1998
5)村上能庸 オゾンを活用したダニアレルゲンの失活化に関する研究 臨床環境医学 19.2 2010
6)王宝禮 動物実験におけるオゾンジェルの皮膚および眼に対する安全性評価研究J.Hard Tissue Biology 20.4.2012
7)新實一仁 オゾンジェルの殺菌効果について 昭和歯学会誌 24.2004
8)寺門都愛 オゾンジェルの創傷治癒促進効果の病理組織学的研究 日本口腔機能水学会誌 5.2004
9)渡井健男 オゾンジェルが効奏した難治性下腿潰瘍と接触性皮膚炎の症例の呈示 第3回日本酸化療法研究会酸化療法セミナー
10) 高橋浩 オゾン水に洗眼消毒薬としての有用性 医科器械学会誌2011.9
11) 花崎秀敏 オゾン水による洗眼手術と白内障術後経過眼科手術 13.3.2000
12)加藤大助 口腔内におけるオゾン水使用時の揮発ガス濃度の測定 日本医療環境オゾン学会第17回研究講演会要旨集
13)岡部俊一 口角炎、チャアーサイドの効くオーラルサプリメントガイドブック、2010